人事労務

【弁護士執筆】【条項サンプル有】リファラル採用のメリデメ解説&法的ポイント解説

【弁護士執筆】【条項サンプル有】リファラル採用のメリデメ解説&法的ポイント解説
目次

1 リファラル採用

リファラル採用とは、自社の従業員の知人の紹介を受けて採用をする手法のことをいいます。

リファラル採用は大手企業をだけではなくスタートアップ企業でも採用される事例は増えつつあります。

「企業等の採用手法に関する調査研究」報告書(2020年3月、株式会社三菱総合研究所 地域創生事業本部)の調査対象会社の大半でリファラル採用が活用されていることが報告されている。なお、リファラル採用制度を会社の正式な制度とはせずに、事実上、社員から転職者の紹介を受けているに留まる企業もある。

活用場面が増えつつあるリファラル制度のメリットとデメリットを考えてみましょう。


2 リファラル採用のメリット

(1) 採用候補者のスクリーニング機能向上によるミスマッチの防止

リファラル採用では、自社のことを良く知る従業員が採用候補者を紹介します。採用候補者は、事前に自社の雰囲気やカルチャー、業績等について事前に十分な説明を受けていることが多いです。その説明を受け、自社の情報を十分に把握した状態で応募してくるため、採用後に「会社の雰囲気やカルチャー等が想像と違った」といったミスマッチが発生しにくくなります。

(2) 人材獲得費用の低下

一般的に中途採用候補者を募集する場合、人材紹介業者に採用候補者の紹介を依頼することが一般的です。具体的な紹介手数料は人材紹介業者や募集職種、年収等によって異なりますが、理論年収の30~40%前後が相場となっています。

例えば、理論年収600万円で採用する場合、180万円~240万円程度が人材紹介手数料として人材獲得費用として発生します。

仮に、同様の人材をリファラル採用で採用していた場合には、人材獲得費用は大幅に削減できます。リファラル採用手当の金額は後述しますが、概ね数十万円前半に留まることが多いため、数百万単位でのコストカットに繋がることもあります

3 リファラル採用のデメリット

(1) リファラル採用手当目的の紹介

リファラル採用では、従業員に対してリファラル採用に関する手当を支給することがあります。この手当の法的問題点については後述します。

リファラル採用手当の金額は特に決まっていませんが、数十万円前半に留まることが多いです。一般的な収入の従業員からすれば、数十万円単位の金額が得られることは金銭的に大きなインセンティブとなります。

その反面、金銭的なインセンティブが強く働きすぎるために、ファラル採用手当欲しさに知人を会社にとりあえず紹介する人が増える可能性があります。自社にとって有用な人材を大量に紹介されることは歓迎すべきことですが、実際にそのような人材が都合よく大量にいる状況は稀です。

従業員がリファラル採用手当目的で知人をとりあえず紹介するといったことが常態化すると、採用に割かれる時間が増え、結局人事の生産性が落ちることになる点に注意が必要です。

(2) 人材の同質性

「類は友を呼ぶ」という言葉があるとおり、人は意図せずに自分と近しい感覚を持った人と仲良くなりがちです。リファラル採用を活発化させると、自社の従業員と基本的には一定以上の信頼関係がある知人が紹介されるため、紹介者と似たようなタイプの人材であることも珍しくありません。似たようなタイプの人材の方が自社にフィットする可能性が高いのでデメリットではないという考え方もありますが、人材の同質性が高くなり多様性が欠如しやすくなる可能性がある点には注意が必要です。

4 リファラル採用の法的問題点

(1)有料職業紹介事業(職業安定法第30条)

職業安定法第30条では、有料の職業紹介事業を行う場合には、厚生労働大臣の許可が必要であるとされています。いわゆる人材紹介会社はこの許可を取得した上で転職支援サービスを提供しています。

リファラル採用も、リファラル採用手当をもらって休職者を会社に紹介することになるため、「有料」の「職業紹介事業」に該当するのではないかが問題になります。

この点について、職業安定法第4条第1項では「職業紹介」とは「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあつせんすること」と定義していることから、会社の従業員における行為は「求職者」自身の行為であり、従業員によるリファラル採用は職業安定法第30条に違反しないものと考えられます。

(有料職業紹介事業の許可)
第三十条 有料の職業紹介事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。

(定義)
第四条 この法律において「職業紹介」とは、求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあつせんすることをいう。

(2)賃金等以外の報酬の提供の禁止(職業安定法40条)

職業安定法第40条は、労働者の募集を従業員に行わせる場合、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払うことは認めていますが、これらとは別に報酬をあたえてはならないとしています。

職業安定法第40条
「労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第三十六条第二項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。」

したがって、リファラル採用は、従業員に対して「賃金、給料その他これらに準ずるもの」を支払う形で設計されていれば、リファラル採用手当等の金銭を支給することが可能になります。リファラル採用手当が同条に基づき適法に支給できることを明確にするために、リファラル採用規程を独自に作成したり就業規則本体にリファラル採用に関する条項を追記する必要があります。

5 リファラル採用規程の作成に関する留意点

(1)リファラル採用手当の金額

リファラル採用手当の金額について直接的な制限はありません。もっとも、前述のとおり、有料の職業紹介事業とは異なるものであることを明らかにするため、一般的な人材紹介手数料に比較して低額にする必要があるでしょう。また、リファラル採用手当のデメリットでもある、リファラル採用手当目当ての不要な紹介を防ぐ趣旨でも金銭的なインセンティブが強すぎない方が望ましいです。以上を考慮すると、数十万円前半、具体的には10~30万円程度で設定するのが良いと考えています。もちろん、紹介される人材のレベルによって金額を変動させる方法もあるため、レベルごとに金額のテーブルを階段式に分けるのも良いでしょう。

(2)リファラル採用手当の付与上限

リファラル採用手当の支給回数に上限を付けるべきか否かという論点があります。この点についてもリファラル採用手当の金額と同様に直接的な制限はありません。もっとも、有料職業紹介事業と区別する観点から、業として(複数回反復して)行う意思がないことを明確にするためにリファラル採用手当の支給回数に上限を付与することが考えられます。

また、リファラル採用手当の支給回数の上限を超過しても知人を紹介してくれる従業員は、リファラル採用手当目的ではなく、善意で会社や知人のために紹介をしていることになります。そのため、会社に対する貢献度の意識の持ち方などの従業員の思考性を判断するリトマス試験紙としても活用する方法もあります。

(3) 在籍期間の下限の設定

紹介された人材が短期間で離職した場合にまでリファラル採用手当を支給すると、リファラル採用手当目当ての紹介を助長する可能性があります。そのため、採用されてから一定期間継続して勤務した場合にリファラル採用手当を支給する仕組みにすることが望ましいです。

6 リファラル採用規程の条項サンプル

第●条(リファラル採用)

1. 従業員は、会社が募集する人材に適した採用候補者を会社に紹介し、当該採用候補者が採用され、入社日から起算して●ヶ月以上継続勤務した場合には、採用された採用候補者一人につき●円のリファラル紹介手当を支給する。

2. ●●・・・・・

TECH GOAT PARTNERS法律事務所では、リファラル採用手当のデザインからリファラル採用規程の作成までの一気通貫で対応しています。リファラル採用の導入を検討している企業様やリファラル採用の導入を決定したもののリファラル採用規程の作成や実務上のオペレーションで困っている企業様は、まずはお気軽に無料面談にてご相談ください。予算に応じて対応範囲を柔軟に変更可能ですので、予算に限りがある企業様もお気軽にご連絡ください。