資金調達

株主間契約のチェックポイント~オブザベーションライト~

株主間契約のチェックポイント~オブザベーションライト~
目次

1.  オブザベーション・ライト(Observation Right)

オブザベーション・ライトとは、投資家がスタートアップに対して、投資家が指名する者(オブザーバー)を取締役会やその他の会議体に派遣することが出来る権利のことです。オブザーバー指名権ともいいます。

オブザベーション・ライトは投資契約において定められることが一般的です。では、なぜオブザベーション・ライトを定める必要があるのでしょうか。

2. オブザベーション・ライトを定める理由

投資家は投資した株式を一定期間内(例:ファンドの償還期限)に売却してキャピタルゲインを得ることを主目的として投資しているため、スタートアップの事業価値が想定通りに向上しているか否かは重要な関心事です。投資家の想定通りに事業価値が向上していない場合には、その軌道修正に向けたアドバイスやサポートをする必要があるため、投資家はスタートアップの運営状況を適時にモニタリング出来る状況にしたいと考えています。特に、想定よりも売上が上がっていない場合、利益が出ない場合(黒転しない場合)、不祥事が発生している場合には社内の状況をいち早く確認する必要があります。

もっとも、法律上、投資家がスタートアップ(発行会社)に対して開示を要求出来る情報の範囲には限りがあります。そのため、投資家が求める情報を全て開示させることは出来ません。

そこで、投資家が指名するオブザーバーをスタートアップの会議体に派遣する権利を契約上の権利として取得することで、適時にスタートアップの運営状況を把握するために必要な情報を適時に把握することを可能にしています。

また、オブザーバーに対して会議体における意見陳述権を付与することで、不適切な事業運営に対して牽制を行うことも可能になります。

なお、オブザーバーと取締役は別の概念です。投資家が取締役の指名権を保有したい場合には、オブザベーション・ライトとは別個に定めることが一般的です。

3.  オブザベーション・ライトの条項例

(1) オブザベーション・ライトに関して決定すべき事項

オブザベーション・ライトに関する条項においては、以下の事項に関して定めることが一般的です。

  • オブザーバーの人数
  • オブザーバーが参加出来る会議体の種類
  • オブザーバーの権利
  • オブザーバーへの会議に関する招集通知の有無

(2) オブザベーション・ライトの条項例

1. 投資家は、発行会社の取締役会(取締役会が設置されていない場合には取締役が参加する経営会議に読み替える)に参加するオブザーバー(以下「オブザーバー」という)を1名指名する権利を有する。     

2. オブザーバーは、取締役会に参加する権利及び意見を陳述する権利を有する。

3. 発行会社はオブザーバーに対し、取締役への通知と同様の方法によって、取締役会の招集通知を行うものとする。

3.  レビュー方針

特に取締役会を設置していないフェーズにおいては、経営会議にオブザーバーを参加させること自体が手続として煩雑であり、事業運営の迅速性を阻害する要因になり得ます。

また、スタートアップと投資家の利害関係は必ずしも一致するわけではなく、投資家に共有すべき事項に関する経営会議に関してはオブザーバーの参加が好ましくないケースもあります。

そのため、スタートアップとしては、基本的にはオブザーバーの派遣を拒否する方針で良いと考えます。もっとも、オブザーバーが参加することで利益を得られるようなケースでは応諾することも考えられます。例えば、取引先や出資候補者の紹介を受けるために社内の状況をオブザーバーに把握してもらった方が良いケースやオブザーバーが特定の事業領域に専門性を有していたり、経営指導に関して実績を有しており有益な発言が期待できるようなケースが考えられます。

別の観点からは、株式の保有比率が高く、事業運営にリソースを割いてくれている投資家に対してはオブザベーション・ライトを認めるという判断も有り得ます。一定の株式保有比率を超えている投資家に限り、オブザーバーの派遣を許容するという定めを設定しても良いでしょう。

オブザーバーの派遣を許容する場合であっても、参加可能な会議体や保有する権利内容をコントロールすることで関与の程度は調整できるため、自社の状況に応じた柔軟な内容に設定することが望ましいところです。特に複数の投資家からオブザーバーが派遣されるような場合、オブザーバーに対して会議体の招集通知を送る必要があるため、会議体の迅速な組成が妨げられることのないよう注意が必要です。


TECH GOAT PARTENRS法律事務所では、主に発行会社からのご依頼を受け、投資契約、株主間契約、分配合意書等のレビューを行っています。スタートアップの事情に合わせて、オブザベーション・ライトを受け入れるべきか否か、受け入れる場合にはどのような条件を付すべきかといった具体的な内容をご提案しますので、お気軽にご相談ください。