投資契約のチェックポイント~上場(IPO)努力義務~
1. 上場努力義務
(1) 上場努力義務とは
スタートアップやベンチャー企業が投資家との間で締結する投資契約においては「上場努力義務」と呼ばれる条文が記載されることがあります。
これは、一般的に投資家はIPOによるExit及びキャピタルゲインの取得を主たる目的としていること、ファンドには償還期間があることから、一定の時期までにIPOをすることを目指すことをスタートアップ/ベンチャーと投資家との間で確認するために定めるものです。
とはいえ、上場の可否やその時期については、N-2期以降などのIPO準備が具体的に進んでいるフェーズならともかく、特にシード・アーリーステージでは予想が困難なのが実情です。これは、実際に売上/利益が想定通りになるかもわからないこと、仮にそれらの数値目標が予想通りであったとしても市況の状況を見てIPOに適しない場合も想定されるからです。
上記の様な事情もあって、上場努力義務はあくまでも努力義務として設定されることが一般的です。
上場努力義務に関する条文例はその記載の粒度にバリエーションがありますが、一例としては下記のようなものがあります。
「発行会社及び経営株主は、●年●月期を申請基準決算期として、●年●月●日までに金融商品取引所への発行会社の普通株式の上場を実現するよう最大限努力するものとする。」
なお、上場努力義務が明示的に課されていない場合であっても、ファンドの償還期限が迫っているような場合には、バイアウトによるExitを求められるケースもあります。ベンチャーキャピタルを始めとするファンドからの出資を受け入れる場合には、ファンドがキャピタルゲインを獲得する必要がある期限についても確認し、自社のIPO時期を踏まえた事業計画との整合性が取れるかどうか確認するようにしましょう。
(2) 上場努力義務への違反が疑われる状況
上場努力義務は、あくまでも努力義務である以上、発行会社や経営株主がその違反を問われる状況はそこまで多くないのが実情です。
もっとも、発行会社の財務状況、経営成績、内部統制システムの整備状況等を考慮するとIPO審査に耐えうる状況であったり、仮に不十分な部分が存在していても適切なリソース配分により改善が現実的に可能な場合には、客観的にはIPO審査を進めることが可能であるといえます。
そのような状況であるにも関わらず、監査法人や証券会社との契約締結に向けた動きを一切行わないような場合には、上場努力義務違反を問われ得ると考えられます。もっとも、客観的にIPO審査を進めることが可能か否かを判断する一義的な基準は存在しないことから、一般的な契約条項への違反に比較すると契約違反を問うハードルは高いものといえます。
(3) 上場努力義務に関する近時の情勢
近時、上場努力義務を投資契約書等において明示的に課さない方針を表明しているベンチャーキャピタル(※)も現れています。
発行会社及び経営株主としては、上場努力義務が課された場合には、上場を目指すこと自体は基本的に放棄できないため、自社が目指すべき方向性と投資家が目指す方向性の確認をした上で投資を受けることが重要になります。
※デライト・ベンチャーズ「デライト・ベンチャーズの投資契約方針について」
(4) 上場努力義務に関するレビュー方針
発行会社としては基本的には上場努力義務に関する記載は受け入れる方向で良いと思います。
ただし、以下のような場合には適宜修正することを検討しましょう。
- 上場目安時期が自社の事業計画を考慮した際に非現実的であると考えられる場合
- 努力義務ではない場合
- 違反時のペナルティが著しく重いような場合
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