資金調達

投資契約のチェックポイント~資金使途条項~

投資契約のチェックポイント~資金使途条項~
目次

1.  資金使途条項

(1) 資金使途条項とは

スタートアップやベンチャー企業が投資家との間で締結する投資契約においては、投資された資金の使い道を指定する条文が記載されることがあります。

投資家に対しては事前にスタートアップから事業計画とそれに沿った予算等が記載された資料が提供されています。投資家は、事前に提示された資料の記載に沿って投資した資金が利用されることで事業が成長し、企業価値が向上することを期待しているため、想定外の事項に資金が利用されることを防ぎたいと考えます。

(2) 具体的なケース
例えば、以下の様なケースを考えてみましょう。

  • ・投資家Aは、スタートアップ企業であるB社に対して投資実行を検討している
  • ・B社からは「自社サービスXはPMF(プロダクトマーケットフィット)している状況であるため、今後はプロダクト開発よりも、サービスXの認知度向上のために資金を使って行きたいと考えている。そのため、調達した資金の大半は販促費に回すことを考えている」という説明がなされ、具体的な販促方法とそれらに要するコストが記載された資料が渡されていた

このケースでは、投資家によって投資された資金は、サービスXの広告宣伝費や販売促進費等に使われることが想定されています。そのため、投資実行後に、A社が新たに新規事業として新サービスYの開発に着手し、その開発費用に資金を投下するようなことは想定していないわけです。

以上の様に、調達した資金の使い道は、投資家が投資実行を決めるための意思決定の重要な要素であるため、投資家が想定していない事に資金を使われることを防止するために、資金使途を指定する条文が記載されることになります。

2.  資金使途条項の条項例

資金使途条項の記載例にはバリエーションがありますが、下記の様な定めが考えられます。

発行会社は、本契約に基づき投資家(引受人)により払い込まれた資金について、以下の各号に記載する費用にのみ使用し、それ以外には使用しないものとする

(1)販売促進費
(2)広告宣伝費
(3)●●●                                   


3.  資金使途条項に違反した場合

(1) 資金使途条項に違反した場合のペナルティ

資金使途条項に違反した場合には契約違反になるため、投資契約書に定められたペナルティが発動することになります。

具体的なペナルティの内容は投資契約書毎に異なりますが、損害賠償請求の対象になるだけではなく、投資家から経営株主に対する株式買取請求権の行使事由となることもありますので、経営株主は十分に注意する必要があります。

(2) 資金使途条項違反の立証

実際に資金使途条項に違反していることは、各種支払に関する証憑(契約書、見積書、請求書、領収書、支払歴等)によって明らかとなります。

もっとも、これらの証憑は会社の内部資料なので、投資家が取得することが当然に認められるものではありません。そのため、仮に資金使途条項に違反するような資金の利用が疑われる場合であっても、投資家からの責任追及は容易なものでないといえます。

3.  レビュー方針

資金使途条項自体は、投資家に事前に示した計画通りに資金を利用することを記載するものであるため、投資契約書に記載することは合理性があります。

もっとも、特にスタートアップ企業では、日々目まぐるしく状況が変わるため、事前に計画した通りに資金を使いたくても使えない状況になることが考えられます。そのため、資金使途条項の記載自体は応諾するものの、その記載の仕方においては、スタートアップ企業にある程度の裁量がある形で記載することが望ましいといえます。

また、仮に違反してしまった場合にも過度なペナルティを負わないよう、ペナルティの内容を許容可能なものであるかを確認しましょう。

なお、実際に、事前の想定と大幅に異なる目的に資金を使う必要が出てきてしまった場合には、投資家にその理由を説明し、理解を得ることが望ましいです。

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