【条項例付】契約書における裁判管轄の定め方
1. 裁判になるまで
企業同士で取引を行っている場合、関係値が良いまま取引が終了することが望ましいのは言うまでもありません。
もっとも、現実にはちょっとしたコミュニケーションミスや認識のズレによって揉め事になってしまうことも多いのが実情です。
揉めてしまった場合には、まずお互いの認識や意見を言い合う話し合いの場が設定されるのが通常です。その話し合いの中で、お互いが譲歩できる解決案で合意できるのが理想です。お互いに弁護士に依頼する費用や時間的なリソースが節約できるためです。
ただ、実際にはお互いに経済的な理由やプライドの問題からどうしても譲歩しきれず、お互いが納得する解決策が見つからないことがあります。
その場合には、裁判外での話し合いでの解決は難しいため、裁判所で法的な判断を仰ぐことになります。
では、裁判を行う際、どこの裁判所で裁判を行うことになるのでしょうか。
2. 裁判管轄
契約書に「紛争になった場合にどの裁判所で裁判を行うのか」について記載がある場合にはその記載に従うことになります。
では、記載がない場合には、どこで裁判を行うことになるのでしょうか。
裁判を行う場所を裁判管轄といい、民事訴訟法の定めによってその管轄が決まります。
本記事では、契約書に裁判管轄を定めることを前提に、どのような記載をすれば良いのかを解説しています。
3. 契約書の裁判管轄の記載方法
(1) 自社の本店所在地や主たる営業所を管轄する裁判所を専属的合意管轄裁判所とする方法
契約書においては自社に有利な様に裁判管轄を設定することが重要です。
例えば、東京都に本社や主たる営業所を置く企業であれば、東京法裁判所で裁判を行うことが基本になります。そのため、東京地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とするのが良いでしょう。
東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする場合の条項例は以下のとおりです。
「本契約に関する一切の紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」
※裁判所における調停手続きを含む場合には以下のようにしましょう。
「本契約に関する一切の紛争(裁判所の調停手続を含む)については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」
例外的に、東京都以外に所在する弁護士と顧問契約等を締結している場合には、その弁護士がアクセスしやすい裁判所にするという判断もあり得ます。もっとも、裁判では証人尋問が実施される可能性があります。証人尋問では、原則として役員や従業員が出頭する必要性があるため、弁護士のアクセスしやすい裁判所を選択した場合には、証人尋問の際の交通費や宿泊費が発生する点に注意が必要です。
(2) 被告の本店所在地を専属的合意管轄裁判所とする方法
(1)記載の方法の場合、本店所在地がどちらも同じ県であれば通常問題が発生することはありません。どちらも東京都内に本店所在地をおいている場合には、専属的合意管轄裁判所は東京地裁であることがどちらにとっても望ましいからです。
一方で、双方の本店所在地が違う県に所在している場合にはどちらかが妥協しなければなりません。会社の規模や、その契約の締結に至った経緯などから最終的にはパワーバランスでどちらかの本店所在地を管轄する裁判所にすることが多いのが実情です。
しかし、これではかならずどちらかが不満を抱えたまま契約締結に至ることになります。
そのため、どちらかが譲歩するのではなく、双方が譲歩する形で決着する方法を検討することがあります。
その際に良く提案されるのが、訴えられた方の本店所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする方法です。
訴えられた方の本店所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする場合の条項例は以下のとおりです。
「本契約に関する一切の紛争(裁判所の調停手続を含む)については、被告の本店所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」
契約締結時にしこりを残さないためにも双方にとってフェアな定めにすることも選択肢として持つようにしましょう。