IT法務

【弁護士執筆】toCサービスにおける未成年者による法律行為の取消とその対応方法

【弁護士執筆】toCサービスにおける未成年者による法律行為の取消とその対応方法
目次

1 未成年者による法律行為の取消への対応の必要性

IT系企業のサービスはインターネットを通じて提供されることが一般的です。

特にtoC向けのサービス、具体的にはゲームや有料のコンテンツ等を販売している企業は未成年者との取引を行うことも増えてきています。未成年者は単体では資力が乏しいものの、総体で見ると売上に対して一定のインパクトを与えていることが少なくありません。また、売上としてのインパクトは大きくなくとも、ユーザー数が増加することがサービスがバズるための起爆剤になることもあるためユーザーとして軽視はできません。

未成年者も含めてサービスを提供する場合、未成年者特有の法律上のルールを理解しておく必要があります。

2 未成年者による法律行為

(1)原則として取消可能

未成年者の法律行為は、法定代理人(基本的には保護者)の同意が無い場合には、原則としていつでも取り消すことができます(民法第5条

これは、一般的に未成年は社会経験や知識に乏しく判断能力も未成熟であることから、未成年者が契約等の法律行為を事後的に取り消しを可能とすることで未成年者を保護することを目的としたものです。

サービスの提供対象が未成年である場合、保護者等の法定代理人の同意が無かったときには事後的にサービスの購入が取り消される可能性があることに注意が必要です。

(2) 例外的に取り消しが制限される場合

前述のとおり、原則として未成年者の法律行為は取消可能ですが、取消が例外的に制限される場合があります。

それは、未成年(制限行為能力者)が行為能力者であることを信じさせるために未成年者が詐術を持ちいた場合です(民法第21条)。

「詐術を用いた」か否かの判断は一義的に定まるものではありませんが、例えば、成年者であると偽った場合や法定代理人の同意を取得していると虚偽の申告をしたようば場合が該当します。

この点、経済産業省が公開している「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」p77では、以下のような判断基準が示されています。

「詐術を用いた」ものに当たるかは、未成年者の年齢、商品・役務が未成年者が取引に入ることが想定されるような性質のものか否か(未成年者を対象にしていたり訴求力があるものか、特に未成年者を取引に誘引するような勧誘・広告がなされているか等も含む)及びこれらの事情に対応して事業者が設定する未成年者か否かの確認のための画面上の表示が未成年者に対する警告の意味を認識させるに足りる内容の表示であるか、未成年者が取引に入る可能性の程度等に応じて不実の入力により取引することを困難にする年齢確認の仕組みとなっているか等、個別具体的な事情を総合考慮した上で実質的な観点から判断されるものと解される。
すなわち、「未成年者の場合は親権者の同意が必要である」旨を申込み画面上で明確に表示・警告した上で、申込者に生年月日等の未成年者か否かを判断する項目の入力を求めているにもかかわらず未成年者が虚偽の生年月日等を入力したという事実だけでなく、更に未成年者の意図的な虚偽の入力が「人を欺くに足りる」行為といえるのかについて他の事情も含めた総合判断を要すると解される。

なお、判例においては、「制限能力者であることを誤信させるために、相手方に対し積極的術策を用いた場合に限るものではなく、制限能力者がふつうに人を欺くに足りる言動を用いて相手方の誤信を誘起し、又は誤信を強めた場合」も「詐術」を用いた場合に含むと判断したものもあります(最高裁昭和44年2月13日第一小法廷判決・民集2・2・291)。

3 未成年者か否かの具体的な確認プロセス

未成年者の法律行為は事後的に取り消される可能性があるため、サービスの提供主体としては未成年者か否かの判定を慎重に行う必要があります。特に、IT系のtoCサービスでは対面でサービスを提供しないため、取引相手の顔等の身体的特徴を確認することが出来ないため、より慎重さが求められます。

まずは、サービスの申込画面において生年月日を入力させましょう。もっとも、生年月日は容易に偽ることができるため、これだけでは十分な確認を行ったとは評価しがたいところです。この点は、前述の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」の引用箇所にも記載されているところです。また、同準則p77では、詐術に当たらないと解されるケースとして下記の具体例を示しています。少なくとも下記の具体例のようなオペレーションは避けましょう。

・単に「成年ですか」との問いに「はい」のボタンをクリックさせる場合
・利用規約の一部に「未成年者の場合は法定代理人の同意が必要です」と記載してあるのみである場合

IT系のサービスの料金の支払はクレジットカード等を用いることが多くなっています。そのため、クレジットカードの認証を追加することが望ましいです。

もちろん、購入までの画面遷移数を増やすほど離脱率が高まることが予想されますが、事後的な取消リスクを加味すると、このレベル感までは少なくとも本人確認を行った方が良いでしょう。

4 未成年者取り消しの対応方法

実際にサービスの利用者の保護者を名乗る者から「子供が勝手にサービスを購入したようなので取り消したい。速やかに返金して欲しい。」という連絡が来ることがあります。

このような連絡が来た場合、以下の書類の提示を求めましょう。成年者が後から購入を取り消すために未成年者であると偽っている可能性があるからです。

①保護者を名乗る者とサービスを購入した未成年者の身元確認書類(両者の関係がわかる住民票等)の提出
②法律行為の取消を主張する旨を記載した書面に保護者と未成年者の署名をしたもの

なお、実際に上記の様な連絡が来た場合にどこまで争うかは返金額の大きさ次第となります。というのも仮500円の返金額に関して争った場合、その対応コストを考えると、直ぐに返金してしまった方が対応に要する人件費等を考慮すると安いためです。

TECH GOAT PARTNERS法律事務所ではITサービスの設計、利用規約・プライバシーポリシー・特商法に基づく表記の作成を一気通貫で対応し、未成年者取消に対する対応も行っています。toC向けのITサービスのローンチを検討している企業様やオペレーションの構築に悩まれている企業様は、まずは無料面談にてお気軽にご相談ください。